19 一癖あり

文章にちょっと嫌悪感を覚えかねない

素粒子 /ウエルベック

★★★★☆

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フランスに1960年代に生を受けた、二人の異父兄弟の物語

主人公の一人、兄のミシェルは分子生物学者であり、彼の研究を巡る物語はSFの要素を含む。そしてそれが最後には驚きの結末へと向かう

第一部から第三部までとエピローグからなる小説だが、第二部がかなり長い

その第二部はもう一人の主人公、弟のブリュノの「肉体の色恋的コメディー」(p.157)が延々と続く。アメリカ型の享楽型経済に毒された西欧文明の批判も含む重要な部分だが、物語としては退屈極まりない。延々と繰り返される、虚しいこのコメディーは、その長さとしつこさこそがそのまま現代人の人生の空しさを描いているようにも感じる。この部分が物語として意味を持つのは、本当に最後の最後を読んでからになる

タイトルからも分かるとおり、随所に物理学や生物学の知識を交えてあり、それが歴史や哲学の話だけでは出せない独特の奥行きを生み出しているように思う

タイトルの『素粒子』について、訳者は現代人が「〈素粒子〉状態で漂っている」と述べている。つまり寄り集まる術もなく、最小単位で漂っている存在。これはわかりやすいイメージだが、どうもタイトルの意味はそれだけではないような気がする

初期条件が与えられ、と彼は考えた、最初の相互作用のネットワークがパラメータ化されたなら、出来事は情熱なき空虚な空間の中で展開されていく。決定論は免れようがない。起こったことは起こるべくして起こったのであり、それ以外の可能性はなかったのだ。(p.95

これはむしろ、不確定性原理により現代の物理学が否定した世界の在り方だろう。話の中には「グリフィスの一貫した物語」のこともでてくる

これらの部分を見ると、作者はどこか人生を「不確定」なものと見ていると考えることもできるのではないか。方程式で一つの予測は立てられても、実際の在り方は絶対に決定できないという素粒子の在り方に、人間をなぞらえているのではないかと

……ちょっと違う気がする。とにかく、『素粒子』というタイトルは何かそういった運命のようなものとも関わりを持たせる意味でつけたんじゃないかという気がするのだが

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ストロベリーナイト /誉田哲也

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★★★★☆

いきなりかなり強烈な描写で焦る

普通の推理小説と違って、捜査する警察集団に焦点が当てられていて、それが決して一枚岩ではなく、それぞれ手柄を取り合っているのが面白い

そんな(小説として)リアルな警察に対して、事件というか、真犯人がちょっと非現実的というかなんというか

スリリングで楽しい。本当に一気に読めてしまうタイプの小説

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私の男/桜庭一樹

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★★★☆☆

話の筋としては、そんなに面白いものでもないかもしれない
近親相姦と、ちょっとした殺人の話
ただ、その描かれ方が尋常じゃない
触覚と嗅覚、特に嗅覚に異様に重きを置いた描写が、家族愛の極限を、あるいはその踏み越えを生々しく描いている
禁忌をなんら美化することなく、むしろ醜悪に、しかも逃れられない宿命のように表現している
精神分析の用語で、エレクトラ・コンプレックスなんてものがあるが
これを読んだ後で、それが誰にでもあると信じることはあまりにも恐ろしい

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金閣寺/三島由紀夫

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★★★☆☆

吃りからコンプレックスを抱えた青年僧が、永遠の美の象徴として彼の前に立ちはだかる金閣寺を焼き払う
青年僧の一人称の語りという形式で書かれている。この主人公が恐ろしく独りよがりという印象を受けた。ついでに陰険。劣等感が原因だから同情の余地ありとは言え、はっきり言ってちょっとキモい
ただ文体は明晰で、主人公の思考に反してさっぱりしたイメージ。逆に淡々とした怖さを感じる
時折、真っ直ぐな直線が急にぶれるような妙な転換点があるような気がする。全体的に語って欲しいことを語ってくれていない。この小説自体どこか独りよがりなところがある。論理的は論理的なのだろうが、あまり理解できない
個人的にはラストが気に食わない。主人公には金閣寺と共に心中して欲しかった。ひどいようだが、死んで欲しかった
そう考えると、行為と認識の問題において自分は主人公よりもむしろ柏木と共感しているのかもしれない。行為によって認識が変えられた瞬間を自分は認められなかったわけだから

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死者の奢り・飼育/大江健三郎(新潮文庫)

大江健三郎の初期の作品集
収録作品は
死者の奢り 他人の足 飼育 人間の羊 不意の唖 戦いの今日
の6編

裏表紙の本紹介にもあるように、「閉ざされた壁のなかに生きている状態」を描いた作品たち
特に魅力的だったのは前半の3編
これらはみな、その閉ざされた世界と外部との交流の物語であり、もたらされようとした和解・変革が未完成に終わる物語でもある
特に最初の2編はそのディスコミュニケーションへの皮肉が光る
逆に「戦いの今日」においては、主人公と外国兵の距離の再接近が二人の関係の終焉と直結しているのが面白い
その他作品を通して特徴的なのが、五感に関する描写、とりわけ嗅覚に関するものだ
視覚的イメージよりも、嗅覚に訴えてくることが実に多い。次いで触覚か
ただ視覚にしても、時に生々しさや、肉感的とでも言えばいいのだろうか、そんな描写で強くひきつけられるところが多々ある
いずれにしても、あまり快いイメージに繋がることはないのだけど
登場人物の不快は容易に共感できたのに対して、快楽にはほとんど共感できない。そこが面白いのか
多少食道がねばつくぐらいの気持ちを覚悟して読んでみた方がいいかもしれない

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