素粒子 /ウエルベック
★★★★☆
フランスに1960年代に生を受けた、二人の異父兄弟の物語
主人公の一人、兄のミシェルは分子生物学者であり、彼の研究を巡る物語はSFの要素を含む。そしてそれが最後には驚きの結末へと向かう
第一部から第三部までとエピローグからなる小説だが、第二部がかなり長い
その第二部はもう一人の主人公、弟のブリュノの「肉体の色恋的コメディー」(p.157)が延々と続く。アメリカ型の享楽型経済に毒された西欧文明の批判も含む重要な部分だが、物語としては退屈極まりない。延々と繰り返される、虚しいこのコメディーは、その長さとしつこさこそがそのまま現代人の人生の空しさを描いているようにも感じる。この部分が物語として意味を持つのは、本当に最後の最後を読んでからになる
タイトルからも分かるとおり、随所に物理学や生物学の知識を交えてあり、それが歴史や哲学の話だけでは出せない独特の奥行きを生み出しているように思う
タイトルの『素粒子』について、訳者は現代人が「〈素粒子〉状態で漂っている」と述べている。つまり寄り集まる術もなく、最小単位で漂っている存在。これはわかりやすいイメージだが、どうもタイトルの意味はそれだけではないような気がする
初期条件が与えられ、と彼は考えた、最初の相互作用のネットワークがパラメータ化されたなら、出来事は情熱なき空虚な空間の中で展開されていく。決定論は免れようがない。起こったことは起こるべくして起こったのであり、それ以外の可能性はなかったのだ。(p.95)
これはむしろ、不確定性原理により現代の物理学が否定した世界の在り方だろう。話の中には「グリフィスの一貫した物語」のこともでてくる
これらの部分を見ると、作者はどこか人生を「不確定」なものと見ていると考えることもできるのではないか。方程式で一つの予測は立てられても、実際の在り方は絶対に決定できないという素粒子の在り方に、人間をなぞらえているのではないかと
……ちょっと違う気がする。とにかく、『素粒子』というタイトルは何かそういった運命のようなものとも関わりを持たせる意味でつけたんじゃないかという気がするのだが
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